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Bland New Tea☆Time♪

Bland New Tea☆Time♪

このページは、管理人が書いたPSO小説となります。
(HP小説の無断転載を禁じます。)
PSO(Phantasy Star Online の略称)は、SEGAの登録商標です。
作品の著作権は、作者にあります。
なお小説の内容は、ゲームの攻略等を示す物ではありません。
小説はオリジナル要素を、多分に含みます。ご了承の上お読みください。
ご理解頂けない場合は、ブラウザバックでお戻りください。
なお小説内に登場する企業・組織・団体は架空のもので、実在する企業・組織・団体とは無関係です。

Phantasy Star Online Destiny 本編16話pso-novel

「それぞれの正義」
 パイオニア2…

 パイオニア2全体を走る無数の走る光の奔流…立て続けに巻き起こる震度7ほどの激震と爆発の数々は
ハンターズ養成学校に集結するハンターズはおろか、何も知らされず避難勧告だけ出されていた一般市民達に
とって恐怖の1日となったとなったのは間違いなかった。
辺りからは、響くは悲鳴と混乱により大狂乱の人々の声。
 「きゃあああああああ!!」
 「なに!?なんなの!?」
 「助けてくれ!崩れてきた壁に妻が…妻が下敷きに…!だれか…誰かー!」
 鳴り止まない、警告音。
換気処理を上回る出火による煙が周囲に充満し始め、人々の心が耐え切れなくなりあとパニックと騒動が
巻き起こるのも時間の問題であった。
 人々を避難させようと必死になるハンターズ…事情を説明してくれと迫る市民。
町の到る所では出火や怪我人があとを立たず、泣き叫ぶ幼き子供達が増え始めるに連れ喧騒の度合いも
いやが上にも増して行ったのである。
追い打ちをかけるように、宇宙の星々を見渡せる天蓋部から徐々に静止衛星軌道上からゆっくりと高度を
下げていっているのが見え…パイオニア2の艦内放送が混線しながら流れる。
 『ブロック73展望台ブロックの対衝撃用ガラス…大破!数名が宇宙空間に流された模様!』
 『パイオニ…2メインエンジン…左舷サブエンジン2-4に着弾…ザザ…た模様…!』
 『各ブロック…ザザ…避難…ザ…ザザ…早く…』
 しかし、突如パイオニア2全体各所に設置されている全てのモニターが点灯し、一匹の黒龍が姿が映った
かと思うと、真紅の瞳が輝きパイオニア2全ての人々が騒ぎをやめ画面を注目しだしたのである。
 それは、あまりにもあまりにも異様すぎる光景でしかなかったが…誰も異常だという事さえ
気づかなったのである。
そう…誰も異変を異変であるとは認識できなかったのであるから…
人々の視線は、黒龍とモニターに映る1人の男…軍部最高司令官ミルズ=グラハードの姿にのみ注がれていた。


ハンターズ養成学校中庭…

 BLACK BIRD隊の洗脳されているとハッキリと分かる虚ろな瞳とはまったく違う意思の強さ。
触れれば切れてしまいそうなナイフの如く冷酷さと、復讐と野望…憎悪で出来た黒い炎を宿した瞳が
人々の心を寒上がらせた。
 「皆の者ご機嫌よう。我ら軍部からのプレゼントはいかがだったかな?」
 野太く、聴く者の心を凍てつかせる強烈な印象を与える声が聞こえると同時に人々はハッとなった。
この男は危険であると…それは本能に訴え掛ける危険信号に似ていた。
 「似ている…」
 「え…?」
 「ああ…ヤツは、エリス=シュヴァルツァーに似ている…危険な雰囲気がそっくりだ…
  でも、シュヴァルツァーには遠く及ばない…傀儡か?」
 エリスの呟きに反応したミミにK'sが補足しながら言い、シュヴァルツァーを睨みつけた。
シュヴァルツァーは、ただ右頬を歪めてフッ…と鼻で笑ってみせただけだった。
人々の注目を集まるのを確認するのかの様に、喋るのを一拍を置き口元に笑みを浮かべる。
 『諸君。我らが同士諸君。パイオニア2に乗船する諸君、今君達がどのような状況に置かれているか
  理解いただけたろうか?
   パイオニア2は、我ら軍部の狙いを定めたミサイルの射程圏内にある。
  今もう一発機関部に放てば完全に爆散し、想いも希望も何もかも宇宙の残骸と化すのは明白だ。
  お前達、惰眠を貪り今さし迫る危機に目を覚ましたであろう?
  我々…グラハルド=ミルズ率いる軍部だけにあらず母星コーラルにおける軍事国家パルマは、
  10カ国連合を離れ我らの示す『正義』を執行するため、今ここで宣戦布告をする。』


同時刻…総督室

 ガガガガ…ガキィィイン!
火花を散らしながら高速で打ち合うソウルイーター同士が、ギシリッと鍔競り合いに持ち込まれる。
ここ総督室でも、同じくミルズ=グラハードの演説が聞こえていた。
 「キリーク…お前達は、何をやろうとしているのか解っているのか!?」
 「クックック…無論!」
 「本当に、お前達は戦争を引き起こすつもりなのか?」
 「やつら軍部は、そのつもりなんだろう。」
 チラッとモニターの向こうにアゴをやり、サッと一旦離れるキリーク。
 『』

 「…お前はまるで違うかのような言い方だな。」
 「ククッ…俺の目的は強者との死闘のみ!」
 「そんな目的のために!」
 「軍事国家パルマの権力と金しか考えない政治屋共の依頼とはいえ、更なる戦いが待っているとならば
  喜んでやるってもんだよ!クハハハハ…!!」
 これ以上の話し合いは無用と言わんばかりに、ギィン…とソウルイーターを跳ね上げ一旦距離を置き
全身から溢れ出す闘気が全身にみなぎっていく。
ビリビリッと全身を突き刺す様な殺気が空気を震わせる!
 「…殺る気か。」
今まで貯めていたキリークと同質の闘気と殺気を、一瞬にして放出するのと同時に両者のもてる最大の技が
放たれた!


ハンターズ養成学校中庭…

 総督室があった場所が凄まじい爆発が起こるのを目のあたりに、パイオニア2の全住民も避難シェルターに
退避しようとし始めるが…ある一点が視界に入るとピタリと動きを止め凝視したまま動かなくなる。
 「ちょ…ちょっと何立ち止まっているのよ!?」
 「あれ…」
 「え…」
 そのある一点とは、ハンターズ養成学校(通称:H.G.S)の上空に浮かび上がる巨大な映像そのものであった。
 「なに?…何なの…?」
 「どういうつもりだ…」
 「え?どういう事…」
 一方その頃…話題の中心であるH.G.Sの中ではザワザワ…と、生徒だけではなく歴戦のハンターズ、
教師らが互いに目を合わせ不審な困惑した表情のまま、シュヴァルツァーとグラハルド=ミルズの顔を
見ながら囁きあっていた。
文字通り釘付けとなって、これから何が起ころうとしてるのか理解しようと耳を傍立てているのである。
 グラハルド=ミルズは、人々の視線の全てが自分に向けられているのを満足したように片頬を歪め、
ひねくれた笑みを一瞬だけ浮かべたかと思うと、再び能面のような顔に戻りながらも朗々と人々に
自らの言い分こそが絶対に正しいのだと言いたげに…人々を諭す様に語り始めた。
 『諸君…君達が、今非常に困惑しているのが手に取る様に分かる。
 なぜ?今この時なのか?と…そう、今だからこそ我らは『正義』を執行しなければならいのだ!
 全てが手遅れになるまえに、<10カ国連合>及び<総督府>からの支配から脱却せねばならぬ。
 そう…彼らこそが、全ての災厄の元凶だからであるからだ!』
 ざわっ…と人々がささやきあうのをやめ、ただ映像に注目した。
これから巻き起こるおそるべき事態を予感しながら…緊張に強ばらせながら刮目したのであった。


 『諸君らも知っての通り、この度の惑星間人類移住計画を持ち出したのは10カ国連合である。
  その原因となった戦争の数々…それの諸悪の権現は、10カ国連合そのものだ。
  国が人が争い続ける…それは愚かであり、断ち切れぬ悲しみの連鎖を生み続けるのみ…。』
その悲しみともとれる声音で、人々の心に語りかける。
 『10カ国連合が、局地的戦争を止めようとしても加盟国の3分の2が反対すれば止める事ができない
 現状…各国の利益、損益が多くからむ戦争の数々が、我が母星コーラルをヒトが住めなくするまでに
 したのだ!…なんのための10カ国連合だ!?』
そして怒りと共に、さらに声のトーンを上げる。
 『世界の安全保障と経済・社会の発展のために協力するために作られたのが10カ国連合ではなかったのか?
 それが、どういう事だ?自国の利益のみを考える国が多数あり、惑星の危機に対してあまりに無関心
 すぎるのだ!…諸君!我らが同士諸君!各国のこのような愚考を許してはいけないのだ!!
 そして、我らパイオニア2を統べる総督府についてもだ!10カ国連合に選出された選ばれた精鋭である
 はずの総督府…。それがどういう事だね!?
 パイオニア2と惑星ラグオルで起きる数々の事件。それを今だ解決する手段すら示さず個人である
 ハンターズに任せっきりである。これほどの大事件は、我ら軍部が対応すべきなのだ!!』
 人々がザワザワ…とそれぞれの意見を述べ合うのを確認する様にミルズの主張がいったん止む。
軍部の主張に理解を示す者―ー。
反対の意見をする者―ー。
軍が主体になる事を危惧する者―ー。
ハンターズによる成果も上がっている事を主張する者―ー。
10カ国連合主体による惑星移住は必要である事を主張する者―ー。
惑星コーラルをなんとかヒトが生きていけるまでに回復するまで頑張るべきだという者―ー。
各々が、個々の主張を繰り返しガヤガヤと意見が交わされていく。


 彼らの意見がヒートアップし始めた所で、ミルズは声高らかに人々に告げる。。
 『諸君!我らが同士諸君!我らが軍部及び軍事国家パルマは、数々の非道な行いと人々の命を顧みない
 <10カ国連合>及び<総督府>の振る舞いに対して、粛清と断罪を告げるため立ち上がったのだ!
 …国を第一に考え、命をオモチャの様に扱う愚昧なる両者に裁きの鉄槌を!』
グラハルド=ミルズは振り上げた拳を机に叩きつけ漆黒の炎をまとった瞳で、人々に叫んだ。
 『諸君!我らが同士諸君!我らに賛同する同士達よ!ただ我らに会いたいと願え!正義を成そう!
 愚かなる<総督府>を一掃し…惑星コーラルにて<軍事国家パルマ>が10カ国連合を滅ぼし、
 世界統一国家を創ろう!』
熱気のこもった狂気の声音は、人々の心を激しく揺さぶり終わりの始まりを予感させるには十分だった。
固唾を飲んで、彼が告げる言葉を待った。
 『改めて我ら軍部は--パルマは、宣言する。我らは『真の正義』を執行するために…
 惑星ラグオル及びコーラルに対し宣戦布告する!!』
 …そして、耳障りなノイズを残し映像と共に全てのミニターの画面が消える。
ほぼそれと同時に、賛同する人々が闇の空間に飲み込まれるのと共に
シュヴァルツァー、キリーク、BLACKBIRD隊の全員が消え失せたのであった。
 残された人々の心には、世界の終末を告げる鐘の音が聞こえた気がした。
…今まさに、終末戦争が始まったと天使が告げにきたのだと思ったのである。


3日後…パイオニア2…


 乗組員らの働きにより、なんとか惑星ラグオルの地表に胴体着陸を成功させてから3日が経過していた。
一般住民らは、ハンターズの指示に従い混乱といった事態もほぼ起こる事もなく避難シェルターに退避できたし
操縦士達の腕前もあったし、整備班らの懸命な働きにより墜落を免れるまでに応急処置が済んだ事も幸いした。
心理としては一般人達は、まるで事態を飲み込めずあぜんと退避したのである。
 しかし…ギリギリ胴体着陸に成功し、人々の心に冷静さと判断が戻ってくるとこれからの不安と恐怖心が
高まり始めるのは致しなかった。


今だに鳴り止まぬ警報音に眠れず、イライラが募りふとしたキッカケで喧嘩が起きたりもしていたである。
それだけにあらず、換気システムがミサイルの一撃によって一部破損したまま修理も追いついていないのか
焦げたような煙が、居住ブロックに入りこんでくる始末であったのである。
 「ごほごほっ、煙がひどいな…」
 「爆撃の衝撃で、排気ダクトが故障したらしい…」
 「地上への降下許可は、未だに降りないらしいわね…洗濯物も干せやしないわ。」
 ざわざわっと、人々が不安を口にする。
人々の不平不満が、もはやピークに達し様としていた。
 「俺達は、これからどうなるんだ!?」
 「パイオニア3で俺の彼女が来たら、結婚する約束が…」
 「軍部の話し方だと、母星コーラルでも戦争を始めそうな言い方だったじゃない…
 まだ、母星には友人や親戚も残しているのに…どうなるのよ…。」
 人々は、それぞれの心配を口々にしながらこれからどのように振舞えばいいのか迷っていた。
泣き叫ぶもの、悲嘆にくれる者、しゃがみこむ者、人々の心には絶望が広がっていく。
絶望、不満、怒り、悲しみ、ありとあたゆる負の感情の鬱積。
 そうした人々の心は脆く、崩れやすい。
ほんの些細なキッカケで、その儚く脆く心に亀裂が生じ正常な判断が出来なくなるまで時間の
問題でしかなかった。


パイオニア2市街地…


  「うう…うぐぐ…うああ!」
 泣き叫び崩れる男の肩を、優しく叩く美しい少女。
少女は、ポケットからハンカチを取り出し男の涙を拭く。
 「俺は…俺は…どうしたらいいんだ!?
  コーラルには、俺の大事な嫁と3歳になったばっかの可愛い娘が待っているんだ!!
  もし…もし…コーラルで戦争なんかおきて…へぐぅ…うぅ…家族が死んでみろ…ぐぐぐ。
  俺は…俺は…大事なモノ全てを失う…うわあああああ!!」
 男は、半狂乱になり泣き叫びながら心の全てを少女に打ち明けていた。
男の半分ほどしかない少女の肩で泣き続ける男をそっと抱きしめ少女は呟いた。
 「軍部の横行・暴走を許したのは、総督府の監督届きが不十分だったからじゃないの?
 そう、パイオニア2と惑星ラグオルで起きる数々の事件…。
 総督府は、今までソレらを解決してきてこれたかしら?
 後手、後手と手を回し、今だ解決の糸口を見つけられていない。
 総督府は無能である…。そうは、思わない?」
 「そ…そうだ!そうだそうだ!!今の総督府がしっかりしてないからだ!!!」
男は、声を荒げ激しく頷く。
 「なら私の言おうとしてる事は分かるわね?
 総督府を政権の座から引きずり降ろし、新たな軍部による新しい世界にかけましょう?」
その言葉に、光を見出したのか男は立ち上がり周辺全ての人々に呼びかける。
 『総督府をうち倒そう!』
 そのスローガンを元に、人々が再び立ち上がるのであった。
男の支持の元、人々は総督府に向かって歩き始める。
その人々の列には加わらず、人々の更新を見届ける少女。
周囲には、もはや人影一つ見せる事なく廃墟のごとく周辺は静まりかえっていた。
 (フン…人は愚かだな…。貴様達を先導している男が、軍部のさし抜けた犬とも知らずに…。
 絶望の淵で思考が麻痺し、何が正しくて…何が悪いか…それさえも解らなくなってしまう。
 お前達は、己の手で自分の首を絞めている事さえも気づかないのだから…。)
 少女は、その美しい顔には不釣合いな程の侮蔑と蔑みに満ちた冷たい瞳と、邪悪な笑みを
浮かべ人々を見送った。
 ブンッ…漆黒の空間を開き、映り込む仮面の男に視線を合わせる。
 「…ここまでは、予定通り…。次のフェイズへと移行しなさい。」
 「ハッ…了解しました、シュヴァルツァー様。」
 「せいぜいにお前達の重い通りにやりなさい。フフフフッ…」
 その少女…エリス=シュヴァルツァーは、憎悪と情熱と狂気の熱を帯びた瞳を持つミルズ=グラハードを、
冷酷な笑みを浮かべながら見つめるのであった。


総督府前…


 突如の軍部の独立宣言に、混乱の極みに達した一般市民が総督府に押し寄せる。
 「総督府は、この事態をどう収めるつもりだ?」
 「そうだそうだ、総督府は、釈明を!」
 数十万に及ぶ民衆の大群が、総督府の前で大声を張り上げる。
人々が暴徒と化すには、もうほんの少しの刺激を与えるだけで十分すぎた。
 「総督府からの会見が、今からあります。準備をしていますので今しばらく…」
 総督府前では、軍部の管轄であるはずの警官達まりも・リライズ・ココット達が立ちふさがり
民衆の説得に努めていた。
 そう、軍部の動きに呼応しなかった警察など軍属の人間もいれば民衆の中にも総督府を
支持する人間もいるである。
 そういう人間は、軍部の言い分が正しいと思わず人々をあつめ、暴徒と化す前の人々を説得しようと
立ち上がり、あちこちで小規模ながら意見の対立もしくは対立が起こり喧騒としていた。
 ココットが視線を上げると、突然パイオニア2市内の全てのテレビ画面が点灯し映し出される。
民衆は、その瞬間黙り込みテレビに視線を集中させるのであった。
 ザザザッ…とノイズが流れた後に、画面に現れたのは…
コリン・タイレル総督ではなく、パイオニア2全市民に衝撃を与えた人物…軍部最高司令官その人
ミルズ=グラハードであった。
 顔半分を隠した仮面を被りながらも、精悍な顔つきをしたヒゲ面の大男。
キレ長の瞳を虚ろに漂わせながらも、その眼にはどこか狂気を潜ませ見るものに威圧感を与える。
 「パイオニア2の諸君。ごきげんよう。気分はどうかね?
 襲撃からすでに3日が経つが、そろそろ不安もピークに達している事だろう。
 そこでだ。我々は、君達に用件を伝えにきた。なんだと思うかね?」
 ザワザワッ…と人々が、それぞれの思った事を口にし始めた。
総督府の全面降伏勧告か、ありえない程の希望的観測からか戦争の全面撤回か、などなど…
話しながらも人々の視線は、一挙一足を見逃すまいと画面に釘付けになっていた。


 「…君達への要求は、1つだけだ。
 まず第一に、総督府の無条件降伏ならびに、所有軍事力の解体及び政権の委譲。
 それが満たされれば、一般市民及びパイオニア2への危害を加えない事を約束しよう。
 そして…要求が満たされなくても、一般市民、ハンターズ、軍人の投降を認め、総督府を見限り
 我らにつく者達は、今後の安全と統一国家成立後の安定した生活及び、地位を保証する。
 我らの同士になりたいという者は、転送テレポーターを用い地上に降りてもらいたい。」
 有無を言わさぬ修羅さながらの、『逆らえば容赦なく殺す』といった怒りの表情を一瞬だけチラつかせる。
しかしそれは、一瞬の事ですぐ元の軍部の指導者然とした顔に戻ったのであった。
 その放送を見た全ての人々は悟らざるを得なかった。…戦争は不可避であり、軍部が勝とうものならば
恐怖政治による見かけだけの統治が待つだけだと…。
 民衆が動揺を顕わにし今後の身の振り方を話会っていたのだが、すぐに収まる事になった。
パイオニア2内専用の内部放送向けのモニター全部にスイッチが入り、総督の姿が映る。
奇しくも、パイオニア2のモニターとテレビによるミルズ=グラハードコリン・タイレル総督による
政治討論が繰り広がれる形となったのであった。


 「ほぉ〜。これは、これは、コリン・タイレル総督殿。
 モニター越しとはいえ、わざわざおいでになるとは…。どういったご用件で?
 民衆の前で、無条件降伏を受け入れてくださるのかな?」
 モニター越しに嘲る様に語るグラハルド=ミルズと、総督の視線がぶつかり合う。
 「まさか。私は、総督府の総指揮官として…いや、<10カ国連合>を代表してパイオニア2住民全てに
  話をしに来たのだ。」
 歴然とした態度でタイレル総督は、ミルズを見据える。
再びミルズの能面の様な表情が歪み、不気味な笑みを浮かべたのである。
再び民衆の中に、凄まじいまでの動揺が波のごとく伝播していく。
ざわざわ…と人々がさんざめく中が、それもわずか数瞬。
ミルズが喋りだすと同時に、一瞬にして民衆の声は消えうせた。
 「ククッ…いまさら一体何を話すというので?」
 「諸君…パイオニア2の人々…そして我らが故郷にして母なる星コーラルの全てに向けてこの通信は
 発信されている。
 <10カ国連合>及び<総督府>の総意を再確認するため、3日におよぶ時間を開けてしまい人々を
 不安と混乱に陥らせてしまったことを、陳謝しなければならない。」
 総督の言葉に、人々が耳を傍立てていた。
これからの未来の行く末が、今ここで決定されようとしている…そう人々は直感していたのである。
 「<10カ国連合>及び<総督府>は、<軍事国家パルマ>との話し合いを望む。
 我らは、数々の戦争を経てようやく手を取り合い、真の平和へと歩み出そうとしている。
 その平和への第一歩を脅かそうとする者は、断じて許すべきではないではないが…
 しかし…このまま戦争に突入するのはかつての愚行と同じである、故に話し合いの場を求める。」
人々の声が、おぉ…という歓声とも感嘆ともとれる声があがる。
全面戦争回避できるかといった希望的観測が、見えた気がしたのはつかの間…
しかし…ミルズがどうでるか見るために、別のモニターに目を向けた瞬間…息を飲んだ。
ミルズの顔から、一切の表情が消えていた。
しかしその瞳には、ありったけの怒りと憎悪が宿った炎が灯っていた…。
人々は、背筋に悪寒が走る感覚に襲われながらも、ミルズの一挙一足に目を離せなかった。
そして怒りの全てをぶつけるかの如く、声を荒げる。
 「笑わせるな…貴様ら<10カ国連合>及び<総督府>が今まで何をしてきてくれた?
 我ら軍部の言うことを聞いてくれたか?
 貴様らが無能であるから、我らは立ち上がったのだぞ!
 諸君!我が声を聞いてほしい。その上で諸君に問いたい。
 我らが望む正義が正しいのか。それとも総督府の正義が正しいのかを!」
 「………」
 タイレル総督も、民衆も静かにミルズの言う事に耳をそば立てている。
それを見てさきほどの態度を改め、いくぶんかの冷静さを取り戻したかのように見えたが…
その眼には、先ほどの激情よりも激しい炎を思わせる決意が漲っていたのである。


 「諸君らも知っての通り、我らが軍部がこの様な暴挙に出た理由…
 全ての元凶は<10ヶ国連合>及び<総督府>にある…。
 母星コーラルでの度重なる局地的戦争…それを止める事もできない形骸化した<10ヶ国連合>
 そして、今我らのための新天地ラグオルで起きる数々の事件を解決できない<総督府>…
 このままでは、ラグオルも再び<10ヶ国連合>の支配下に置かれ同じ過ちを繰り返すであろう…。
 それではいけないのだ!再び同じ過ちを繰り返してはならない!!
 <10ヶ国連合>ではなく「世界の警察」として、軍事国家パルマは局地的紛争の解決や
 人権擁護、麻薬撲滅など、人々の尊厳を守るための抑止力であり正義でなければならない!
 それゆえに、世界にはこびる数々の「悪」を駆逐しなければならないのだ!
 だからこそ、リーダーとして正義の旗印のもとに…我らは…軍事国家パルマは…
 立ち上がったのだ!!世界をより正しき世界へ導くために!!
 我らが勝利した暁には、局地的戦争など引き起こさせないために全ての人々が手を取り合う国家
 <世界統一国家>の創立を約束しよう。
 世界は完全に統一され、ありとあらゆる武器、兵器、物資、思想、人、ありとあらゆる全てが
 管理制御された完全なる世界。
 それが成されれば、真なる平和な惑星と生まれ変わる事ができるのだ!!
 そしてそれこそが、惑星コーラルのラグオルの…繁栄を恒久的に守っていく事になると信じる!」
 ミルズが一気にまくし立てる様に、演説する姿を見て人々が再び騒ぎ出す。
そして同時に、ミルズの演説に対する返答への注目がイヤが上にもタイレル総督に集まる。
ミルズを無表情なまでに見つめていた総督が、視線を民衆に向け語りだした。
 「さきほど、ミルズ氏が言った様に現在の<10ヶ国連合>は形骸化したと言っても過言ではない。
 だが人々が愚かな戦争を繰りえし居住する事が困難な状況に陥った現在。
 真の意味で手を取り合い、新たな生きる道を模索し始めたのだ。
 新たなる新天地で全ての人々が手を取り合い、平和を築くはずだったのである。
 それを…それを…軍事国家パルマは、自らが全ての頂点に立ち世界を導くと言うのか。
 軍部、パルマがやろうとしているのは、征服なのだ!
 彼らが作ろうとしている<世界統一国家>を作るために、他の国家を踏み潰すそうとする。
 これでは、今までの戦争とまったく同じではないか。
 彼は、重要かつ重大な事を隠して話していたのを気づいた方も居たのではないか?
 世界は真に手を取り合うべく、あらゆる国家エゴイズムから完全に解き放たれた圧倒的武力…
 真なる意味の<世界警察>が、創立しようとされている事をだ。
 特定の勢力に組せず、総意に基づく不偏不党の武力の創立が今まさに行われようとしている。
 あらゆる武力が決して超える事のない圧倒的な武力である真の<国連軍>の創立である。
 それを完全に無視し、自らのエゴイズムを「正義」の元に包み込み世界を相手取る。
 これが…これが真の正義であると言えるのだろうか?
 そして…彼らが勝てばありとあらゆる全てが管理制御された世界を実現させようとしている…。
 人の自由な発想も、心も、愛も憎しみも全てが完全に支配下に置かれた世界など
 人をまるで機械の様に扱い、全ての意思を封じ込め、反対するものを許されない世界…
 力にまかせた恐怖政治となんら変わらない危険な発想だ。」
 「違う!そうではないのだよ!コリン・タイレル総督!!」
 「というと?」
 両者2人の視線が絡み合い、火花を散らすかの如く、お互いの主義主張が正しいと睨みあう。
さながら龍と虎が合間見えるかのようであった。
 「我らが目指しているのは、最大多数の最大幸福なのだ!それこそが、民主主義の鉄則であろう!」
 「多くの者を救うためには、1人の犠牲もやむをえないと?」
 「その通りだ!ただ暴れ奪うだけならサルにでも出来る!
 そんな不平不満を持つ一部の少数意見の手によって、人民の命が奪われてはいけないのだ!
 全てが完全に管理されればそんな事など、起こりえるはずがないのだ!」
 「ほぉ…。つまりあなたは…軍事国家パルマと軍人以外はサル以下であると?」



 その瞬間、ミルズ・グラハードの表情がまるで石像であるかの様に固まり氷ついた。
そして一気に人々の怒声とも歓声ともつかぬ声がパイオニア2を揺らすほどに広がっていく。
言い返す言葉さえ失ったかのごとく、動きさえ止めってしまったミルズを無視しタイレル総督は演説を続けた。
 「皆よ聞いて欲しい、今我々がとる未来をあなた達自身が考えて欲しい。
 大国のいいなりになる選択肢のない未来に突き進むのか…
 全ての人々が手を取り合い、よりよい未来を考え共に進んでいく道か…
 私は言いたい。あなた達は、自由なのだ!望む未来をその手で掴むための自由な意思がある!
 自由を奪われた未来に、何の希望があるというのだろうか?
 自由であるが故に、人は手を取り合い、愛を育み、幸せを勝ち取ろうと頑張れるのである。
 また同じく自由だからこそ、人は争い、憎しみあい、絶望に打ちひしがれる時もあるだろう。
 だが、私は君達を…君達が、手を取り合い平和を掴めるであろうと全てを信じている。
 <10ヶ国連合>全てに所属する皆が、手を取り合いラグオルまで辿りつけたのだから…
 パイオニア2に乗船している君達こそが、未来への希望なのだ!」
 わぁわぁ…と人々の歓声の声が、しだいにしだいに大きくなっていく。
 「コリン・タイレル総督!!」
 「あんたについていくぜー!」
 総督府を非難する声が少しずつ少なくなっていき、総督府を応援する声の方が大きくなっていく。
うんうんと、大きく頷いてみせるタイレル総督であった。
誰も見向きもしなくなったミルズの方はというと、滝のような汗を流し言葉を発せずにいたのである。
 それを尻目にコリン・タイレル総督の演説は続いていく。
 「皆も承知の通り今我々は、重要な局面に立っている。
 世界を変えるため、手を取り合い立ち上がる時がまさにこの時なのだ。
 軍部の反乱…戦争の撲滅…取り組むべき問題は重い。
 しかし、逃げる事なく立ち向かっていくのだ!
 世界が滅び行く運命であるなら、我々はその意思の力でもって変えていく事が出来る。
 私はあなた達を信じている。全ての人の心に眠る力を…その存在を…。
 あなた達が私と共に立ち上がってくれるのならば、未来は変わる!変えてみせる!
 私の…あなた方の心に宿した勇気と共に!
 世界を変えてみせよう…確実に!!」
 もう引っ込みがつっかなくなった軍部と<軍事国家パルマ>はこのまま戦争へと突入させるであろうという
不安があるなか、落ち着きを取り戻しつつ全ての人々が混乱から立ち直り、これからどうするべきかを
考え始めだしたのであった。
存在さえ忘れ去られてしまったかの様に、ミルズはモニターから姿を消していた。


総督府内部…

 壊れた設備を再建しながらエリスは、かのそ達と共にその報道を間近で聞いていたのだった。
 「未来を…運命を変えるか…。」
 エリスがポツリと呟く。
 「軍部の暴走をとめなければ、パイオニア2は沈む。
 軍部を止められても、軍事国家パルマが止まらなければ次に狙うのはラグオル。
 パイオニア2対100万の戦艦なんて勝てるものじゃない…。
 両方を止めてこそ、真の勝利だよ。」
 かのそが総督を見ながらそう告げていた。
その場にいる全員の顔に緊張が漲ってくる。
 「事実上の最終決戦は、もうすぐか…。」
 誰かの呟きに、全員が頷いていた。
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