第四幕『鏡像の妖女』


 ガザ砦での攻防は竜族の撤退という形で連合軍が勝利を収めた。
 劣勢に追い込まれていた連合軍にとって竜族打破への要地であるガザを護り切ったというのは大きい。またこの戦いに於いてヴィノを敗走させた魔族の姫エリーゼ、圧倒的な力を持つ竜族の戦士を瞬く間に葬った謎の剣士ラヴィス両名の活躍が兵達の士気を著しく高めていた。
 この勢いのまま前線を押し上げようと連合軍は西進する。
 ガザ砦から出陣した連合軍の行く先はリシュメイアであると大半の者は考えていたが、その予想は覆される事となった。
 新しく就任した連合軍の軍師はリシュメイアには兵を割かずに北上し嘗ての交易地マルクスへと部隊を動かす。過日の撤退は多少の誤差は有れど概ね竜族の計画通りであり、此度の進軍を誘導する為の策であると見抜いたのだ。
 しかし竜族も動き出す。北方の地アリエスを奪取した竜族は其処から南東へ向けて進軍を始める。その先にあるのは王都クルクス。物資供給の要であり連合の中枢でもあるクルクスを奪われる訳にはいかないと、連合軍内部から声が上がる。
 これに対し軍師は精鋭の兵約三千と一万の騎馬、将兵数人を集めアリエスの先に位置する深く生い茂る森林地帯へ向かわせる。
 ガザの戦いから一カ月。大陸に新たな風が吹き始めようとしていた。


 ゆっくりと瞼を持ち上げる。
 空には満天の星空が広がっているが、仄かに東の空が白み始めていた。
 アリエスから東南東に位置するシエラ高原。鬱蒼とはしていないが多くの草木によってその視界が遮られており、兵を伏せるには絶好の場所となる。また南側には深い森が長く東西に延びており、大陸中央部と北部との交流を断絶するかの様な構えとなっている。
 例外的にオルケウス山脈から流れるオウレル河の周囲は比較的開けた場所が多く、率いてきた軍勢も其処に拠点を設けている。
 数は三千程。拠点の守備隊が千、拠点内に設けられた天幕や簡易食堂で待機しているのが千と五百前後。残りは各居留地からの輸送物資整理と偵察等の任に当たっている。
 出撃前、彼は言った。陽動ではあるが殲滅戦でもあると。
 最終目的地をクルクスに定めたが、途中連合軍の補給線を断ち相手前線の動きを鈍らせる事も込の進軍だ。
 「眠気を堪えられぬなら天幕へ戻れ、体が冷えるぞ」
 頭上からの声に体を起こすと、知らぬ間に掛けられていた毛布がするりと地面に落ちる。其(それ)とほぼ同時に、小さくなっていた焚火がその勢いを増し周囲に温かさが戻った。
 今私が居る場所は拠点の端にある広場。
 恐らく何十年も前には人が住んでいたのだろう、辺りは草木も生えず地肌が露出したままだ。
 焚火で暖を取りながら暇潰しに、と星を眺めていたのだが何時の間にか眠っていたらしい。
 近くの木を切り出して作った簡素な長椅子の上、私の右隣に座った彼の顔が焚火に赤く照らされた。
 治癒術により大半の傷は跡形も無くなっているが、破れた服の隙間から覗く真新しい包帯が受けた傷の深さを物語っていた。治癒術と防護術式による淡い青緑の光が今も傷口を修復している。
 「ヴィノ、医師から余り出歩くなと忠告されていなかったか?」
 心配半分呆れ半分、といった声を掛けながら右の髪を掻き上げる。
 寝ている最中に変な癖が付いていないか気になったが、どうやらその心配は無いようだ。
 手を離すと緑銀の髪が灯りを反射させながら垂れ下がる。
 「軍を預かる者が寝てばかりもいられまい」
 其は私への当て付けか、と苦笑を浮かべるが彼は気にした様子も無く落ちた毛布を拾い上げ此方に渡す。
 その動きに僅かな淀みを認め、私は両手で毛布ごと包み込む様に彼の手を握る。
 まるで死体に触れているかの様に、彼の手は冷え切っていた。
 「こんな体で歩き回って、また倒れたらどうするつもりだ?」
 そっと、しかし力強く彼は手を握り返す。
 「倒れたら、か。その時はまたお前に助けられるのだろうな」
 正面から此方を見詰める瞳に、まだ力は漲っていない。
 「迷惑を掛ける」
 「……勝手な奴だよ、お前は」
 溜息交じりに告げると彼はクク、と喉を鳴らして笑う。
 彼から毛布を受け取り膝に掛ける。変な体勢で寝ていたのか、左足に痺れが残っていた。
 彼が意識を取り戻すまでの間、衛生班の天幕は右へ左への大騒ぎだった。
 竜族の勇士が総出で相対しても膝を着かせる事の出来なかったヴィノが血塗れで倒れていたのだ。動揺は全軍に広がり指揮系統の混乱が起きかけていたのだが、何事も無かったかの様に起き上がった彼と、倒れていた理由を訊き出した族長の嫡男であるトゥーガが事の経緯を――肝心な部分を暈した表現で誤魔化したものではあったが――説明した為大事には至らずに済んだ。
 一応の落ち着きを取り戻した兵達は各々の任務に戻り、来るべき戦闘に備えていた。
 「せめて傷を負った状況とその理由位話してもいいだろうに」
 「済まないが其は言えぬな。言ったら間違いなく我の傷口が広がるであろうからな」
 其は私が彼を殴り倒す様な内容だという事だろうか。
 考えた事が表情に出ていたのか、彼は口の端を歪めて言った。
 「傷が完治したら殴る、と既にトゥーガから予約が入っていてな」
 「……はぁ」
 深い深い溜息を漏らし、その事については考えない様にした。
 考えた所で頭痛の種が増えるだけなのだろう。
 気を取り直し、彼に目を向けた。
 何処から取り出したのか、真新しい漆黒の術衣を着込んでいた。はっきり言って趣味が悪いと思うのだが、本人が気に入っているので何も言わない。
 「どれくらい寝ていた?」
 「一刻半といったところか。我が言えた事では無いだろうが、睡眠不足は肌荒れの原因だぞ」
 「確かに言えた事では無いな。しかも解っている癖、改めようとはしないのだから長老の跡取り息子より性質が悪い」
 お返しと言わんばかりに意地の悪い事を言ってみるが、涼しげに頬笑みを浮かべるだけだった。
 これだから彼と話していても張り合いが無い。近所に住む子供達は顔を真っ赤にして――時折火も噴き出しながら言い返してきたというのに。
 不意に彼は笑みを消し、私から視線を外した。
 「まだ、夢に見るのか」
 その言葉に、私の胸が小さく軋む様な痛みを覚えた。
 「……魘されていたか?」
 ああ、と彼は私の問いに答えた。
 「そうか……もう踏ん切りを付けたつもりだったのだが」
 「そう簡単に忘れられるものでは無かろう。我が言えた義理では無いが、家族を失って平然としている事等出来はしまい」
 不躾で不器用な言葉が返る。
 凡そ人らしい生き方をしてこなかった彼なりの精一杯の言葉なのだろう。そう思うと、何やら照れくさい。
 「なんだ、慰めてくれるのか?」
 妙な意地が出たのか、素直な言葉の代わりに出たのは酷い言い草だった。
 しかし彼は気にする事も無く、ふっと軽く息を吐き出す。
 「我の言葉では慰めにもならぬさ。お前と出会ったあの日から、一度たりともお前の傷を癒してやる事も出来ずにいるのだから」
 「……すまないな、ヴィノ」
 「何故謝る?」
 右手を口元に当て、私の言葉に首を傾げた。時折、こんな風に彼は子供の様な反応を見せる。
 その様子が可笑しかったのか、自分の子供染みた言い草に呆れたのか、私はふふっと笑いを漏らす。
 益々意味が解らない、といった様子で彼は腕を組んだ。
 其を見て私は声を上げて笑った。
 一頻り笑った後彼を見ると、矢張り解らないといった顔で私を見ていた。
 「何が愉快だったのかは解らぬが、少しは気が晴れたようだな」
 「ああ、お陰でな。……ふふっ、お前は優しいな」
 「我をそう評したのはノーヴィー以外ではお前が初めてだ」
 「そうなのか。周りの女子は見る目が無いな。いや、其ともお前が彼女達を近くに寄せ付けないだけなのか?」
 其には答えず、彼は何処から取り出したのか水筒を取り出すと中の液体を小さな湯呑に注いでいた。香草茶か。
 気付けば横にもう一つ湯呑が置いてあった。
 「何時の間に淹れたんだ?まぁいい、有難く頂戴するか」
 勢いよく飲み干せば、甘い草の香りが鼻に抜ける。
 暫くは二人、薪の爆ぜる音に耳を傾けていたが不意に彼が口を開いた。
 「この先の戦い、恐らく今までの様には行かぬだろうな」
 「如何いう事だ?」
 「ガザでの戦いの時から、何かが変わった。ヴァーティマが見付ける事の出来なかったリシュメイアでの強襲者。ガザでロヴァン等老竜を討ち取った気配無き奪命者。そして戦況を立て直し凌ぎ切った連合軍の軍師。何れもカルタナまで参戦していなかった者達だ」
 「……其が?例え連合軍の戦力が想像以上だとしても、お前の描いた戦局図に大した変化は無いのだろう」
 いや、と彼は首を振る。
 「確かに腕の立つ将兵だけなら問題は無い。だが、あの急襲に即座に反応し陣を組み直せるだけの者が居るとなると、話は違ってくる」
 「買い被り過ぎじゃないのか?」
 「まだ見縊(みくび)っているかもしれんな。リシュメイアに全兵力を向けていれば我等がクルクスへと向かう事を阻止出来なかった。実際はリシュメイアには目もくれず、マルクスへと攻め上がった。だから我等は此処で連合軍を待ち構えている訳だ」
 普段の覇気が声に乗らない。
 其を迷いと取った私は、はっと笑いを漏らした。
 「お前らしくもない、いつもの様に常勝の策を翳せばいいじゃないか」
 「負ける為の戦いに用いる常勝の策、か。字面だけ見れば不可解極まりない言葉だな」
 クク、と喉を鳴らす彼特有の笑い。しかし瞳は笑わずに揺れる炎をぼんやりと見詰めていた。
 (相変わらず何を考えているのか解らんな、こいつは)
 呆れとも付かない視線を向けていると、彼は誰に言うとでも無く呟いた。
 「此処での戦いには恐らく、その軍師は関わっていないだろう。……マルクスは突破されるかも知れぬな」
 「マルクスが突破?」
 その言葉に思わず訊き返してしまう。
 万が一の事を考え、マルクスの守備隊には多くの兵と将を残してきた。ヴァーティマやトゥーガ等何れも劣らぬ勇士ばかりだ。例え連合軍が此方に兵を割かず全軍でマルクスを目指そうとも、我々の到着まで凌ぎ切る事の出来る策も用意した。
 (其で猶、突破されると読んでいるのか?)
 馬鹿馬鹿しい、と笑い飛ばそうとするより早く私の視界が傾いていた。
 「は……?」
 眼前に揺れるのは緑銀の房。其は私の髪だ。
 自分が倒れこんでいるのだと気付いた瞬間、視界の端から何かが暴風の様に突っ込んできた。
 余りの速さに輪郭がぼやけて見える。読み取れたのは幅広い鋼の色。
 僅かに遅れて破砕音が響く。
 背中に土の感触が生まれて、ヴィノに突き飛ばされたと理解した。
 「敵襲か!」
 「いいえ、私が狙うのは一人。ですので、貴女に用はありませんの」
 問い掛けに応えたのは落ち着いた艶やかな声。
 突っ込んできた奴の正体は女性だった。
 褐色の肌に巻き付けられた絹の布が胸や腰を申し訳程度に覆っており、まるで娼婦の様な出で立ちなのだが不思議といやらしさを感じさせない。女性にしては高い部類に入る身長も相俟って、何処か高貴な印象さえ与える。
 腰程まで伸びる薄い金髪はたおやかな曲線を描いており、癖っ毛特有の野暮ったさは微塵も無い。
 だが最も目を引くのは彼女の左手に握られている得物だ。
 彼女の身長程もある抜き身の大剣。鈍く光る鋼色の刀身が静かに威圧感を放っている。
 不釣り合いな得物を下段に構え、彼女は蠱惑的な微笑みを浮かべた。
 「ヴィノ・ユーノクライン。彼を頂いて行きますの」


 女性は起き上がり、此方を牽制する様に半歩前に出た。眼は真っ直ぐに私を射抜き、左手を伸ばし僅かに腰を落とした構えで相対する。
 まだ半人前ですのね、と思う。
 竜族の主な攻撃手段は徒手空拳だ。剣術や魔術に長けている者も、その動きの基礎となっているのは素手による格闘術。
 その為、構えを見れば相手の技量が解る。
 眼前の女性、構えは基本に忠実でありその動きに一切の歪みは無い。だが其故に生まれる隙というものがある。其は実戦の中で自身を磨き闘士として経験を積む事で消えていくものなのだが、
 (余り戦場に出た事は無いようですのね)
 ほぅ、と軽く息を抜く。
 その動きに然したる反応も見せない彼女を見、呆れとも失望とも付かない感情が湧き上がる。
 一切の興味を失った心は視界の端に映る姿に引き寄せられた。
 彼は浅く腕を組み無表情に私を見ている。
 深く考え込む時、表情から全ての色が消える。其が彼の癖だ。普段は不敵に微笑みを浮かべている彼に、此処までの思考を要求させたという事実が私の体に熱を与えている。
 しかし思考を中断する事も無く彼は一つの動きを見せた。
 先程の吐息。其処に込められた意味を見逃す事無く、彼は微かに体の重心を右側――女性の立つ方向へとずらした。
 試す意味もあり幾分解り易かったとはいえ、漏らした闘気に鋭敏な反応を見せた彼。
 何かを言おうと息を吸い込むが、先に声を発したのは彼だった。
 「今までに会った事は無い。だが我はお前を識って≠「る」
 その言葉に眼が弓になるのを抑え切れない。
 語らずとも互いを理解出来る。その事実に胸が早鐘を打つ。
 「我儘を言わせてもらえるなら会う≠フではなく逢う≠ニして欲しいところですの」
 声に嬉が滲んでしまうのは仕方無い事だと勝手に納得し、左手を返す。
 そのまま右足で穿つ様に大地を踏み抜き、地に刃を乗せたまま滑らせる様に跳ぶ。
 駆ける為の動作は要らない。地に足を乗せるのは踏み出した次の一歩だけでいい。一歩で最高速まで持っていく。
 地を疾走する刃は鞘走りと同等の効果を得て、速度を乗せた刀身は文字通り空気を割りながら進む。一瞬で距離を詰め、左手を僅かに浮かせ柄尻を右の掌で軽く押し込む。
 地に拒まれた刃は反動で跳ね上がり、切っ先を持ち上げ真っ直ぐ彼へと向かう。
 瞬くよりも疾く、剣先が彼の身を狙う。が、
 「――――」
 来る筈の手応えは無く、刃は空を切る。
 彼は腰を落とさず体躯を起こしたまま、僅かに重心を右にずらした。其だけの動作で刃は彼の横を通り抜ける。
 今、大剣に込めた力は天へ抜けようしている。
 だが私も彼も、其を許す程甘くは無い。
 ならば、と起き上がった上体から右の肩を下げ全身を捻る。
 振り抜いた勢いのまま大剣を自らの背後に回し身を深く沈め、響く衝撃を地に逃す。刀身を伝う衝撃は同時に三発。牽制の打撃ではあるが、まともに喰らえば意識が散逸するだけの威力はある。
 逃し切れなかった衝撃を使い体躯を回し左足で踏み込み、引き抜く様に大剣を右へと薙ぎ払う。
 円の軌道をなぞる刃が向かうのは彼の右脇腹。
 上体を起こしていては太刀筋が伸びるのは胸の辺り、大胸筋を裂くが骨を断つまでには至らない。低過ぎては刀身に拳を放たれ折られるか、跳んで避けられてしまう。
 狙いは肋骨の下、胴の僅かに上。
 引き抜く様にして振り抜いた右手に手応えがあり、
 「――っ!」
 しかし此方の予想よりも速く衝撃が走る。
 かっと見開いた瞳に映るのは前に突き出した左手で刃を掴む彼の姿。
 掴み方に力は無く、刃の上に掌を載せる様な構え。
 (これは……此方を止める動きではありませんの?)
 違和感に答えたのは彼の両脚。
 不意に、彼が浮いた。
 斬り払われる大剣に体を載せて、彼は宙を舞い私の背後に影を作る。
 すかさず右足の踵に力を込め反転しようとするが、大剣の腹に幾つかの打撃を受けた。
 逃し切れなかった衝撃が手首に鈍痛を与え、空足を踏まされる。
 だが続く連撃は無い。
 振り向くと彼は先程と同じ様に浅く腕を組み私を見ている。
 一つ違うのは彼の顔に笑みの様なものが浮かんでいる事だ。
 「仕切り直し、という事ですのね」
 大剣を右方の地面に突き立て、体重を柄に預ける。
 額に汗が滲んでいる。まだ息は上がっていないが、徐々に全身が熱を帯び始めていた。
 深く息を吐き出すと、幾分体温が下がった気がする。
 「絶好の機会でしたのに。何故追撃しなかったんですの?」
 口の端を上げて問う私に彼は当然の様に答えた。
 「女は殴るものでは無い、愛でるものだ」
 「其は男尊女卑な発想ではありませんの?」
 「単に好みの問題だな。男を撫でても気色悪いだけだろう」
 「そうでもありませんのよ?私は貴方を一日中でも撫でていたいですもの」
 「其こそ個人の嗜好だろう」
 言って彼は左手を上げ、私の左側に向ける。
 気付けば女性が緑銀の髪を風に揺らしながら立っていた。
 「あら、まだいたんですの貴女?」
 「この女……!」
 額に青筋を浮かべて此方を睨みつけているが、動こうとはしない。
 彼が制した理由を解っているからだろう。
 「リィヴィィ、お前の敵う相手では無い。天幕に戻り休んでいろ」
 「だが!」
 「構わぬ、戻れ」
 有無を言わせぬ口調に言葉を詰まらせ、女性は背を向けて歩き出す。
 「後で子細をじっくりと聴かせてもらうからな、道士殿」
 声に憤りを交え、最後に此方へと一瞥をくれる。
 私は其にクク、と喉を鳴らす笑いで応える。
 忌々しげな女性とは対照的に、彼は僅かに笑みを濃くした。
 彼女の姿が見えなくなると、彼は苦笑交じりに息を吐く。
 「全く、血の気の多い奴だ。勇ましいのはいいが時折自分が女である事を忘れているのでは無いかと思ってしまうな」
 「唱(しょう)竜(りゅう)とは思えない気の強さですのね。お淑やかで驕らず、一途に想い人を支え続ける気性を美徳とする種族ですのに」
 「その理由、理解は出来ずとも知識として持っているのではないか?」
 放たれた言葉に眼を見開く。
 視線の先、彼は口の端を釣り上げ不敵な笑みを浮かべていた。
 「少しずつ、お前の姿が見えてきた。断片的な情報しか持たぬ今、お前の存在そのものを特定若しくは類推する事は叶わぬがな」
 しかし、と彼は組んでいた腕を解き挑発的に私を指差す。
 「一つだけ解った事がある。お前は我≠セ」


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