グラール史に残る最悪の大戦から100年。
戦争終結を祝う記念式典が今日、行われる。
 通りを行く人々は皆喜びを隠し切れない様子で、式典会場――
若しくは式典を中継する為の巨大モニターが設置されている広場へと急ぎ足で向かっている。
この祝いの席で仏頂面をしているのは同盟軍のキャストか
真面目で融通の利かないガーディアンズくらいだ。
 そして、その真面目で融通の利かないガーディアンズの一人であるアルベルト・マルガノフが、
式典会場から離れた場所であるオロール展望台広場で目を光らせていた。
と言ってもここにいるのは警備に当たっている彼ともう一人のガーディアンズだけだ。
 本来ならここに運び込まれる筈だった巨大モニターが業者の手違いで届いておらず、
普段から静かな場所として知られていた展望台は一時の賑わいを見せる事なく閑散としていた。
テロの警戒―――
表向きは大層な任務だが、グラールの式典が行われる際にはいつも行われていた事もあり
 (だいたいがテンションの上がった人達の喧嘩の仲裁等)
大半のガーディアンズはそこまで危機感を持っていなかった。


ガーディアンズ・コロニー内オロール展望台広場…

 「ふぁ……」
退屈そうに欠伸をする少女。
 ニューマンらしく小柄な体躯に青と白を基調とした
ブレイブスジャケットに白と黒のゴジゴッジショートパンツというラフな格好。
やや短めの銀髪と紅い瞳。
そして雪のような肌が、彼女を普通の人とは違うエキゾチックさを醸し出している。
 「フィー!任務中に欠伸なんて怠慢ですよ」
 「ってもさー、アル。こんな辺鄙な場所に一体どこの誰が潜んでるって言うのよ?」
 見咎められた事に悪びれる様子も無く、フィーはがらんとした空間に指を向ける。

フィー・イェルハルト。
 ニューデイズでは名の知れた有名企業である財団を取り纏める名門イェルハルト家の令嬢であり、
腕利きのガーディアンズである。
主に戦争終結後の事後処理や過激分子の排除等、一筋縄ではいかない任務を数多くこなしてきた
秘密機関『機動警護部・粛清課』に所属している。
彼女自身も多くの任務を遂行し、歴史の表に出る事の無い事件の首謀者を闇に葬ってきた。
その為か裏社会では『銀狐』の仇名で畏れられている。

 「いつどこに現れるか解っていてはテロとして成立しないでしょう。
その為ありとあらゆる可能性を視野に入れ、且つ事前に備えておく事こそ真にテロリストから
平和を守る事に……」
 「あーはいはい、私が悪かったわよ」
 右から左にアルベルトの説教を聞き流しつつ、フィーは展望台の方へと足を進めた。
見上げれば満天の星空が、そこにある。
煌めく星の海を眺め、フィーは溜息を吐いた。
 「なんだってたかが警備なんかに粛清部が駆り出されなきゃなんないのよ」
 平穏である事に異議は無いのだが、こう退屈な任務ばかりだと腕が鈍ってしまう。
 悩みのタネはそれだけでは無い。
最近は不穏分子もなりを潜めているらしく、もっぱらデスクワークの毎日だ。
ただ机に向かい山のような書類を片付けていくだけの仕事には飽き飽きしていたし、その仕事量が
半端では無いのでどんなに急いでも一週間掛かるところを4日で終わらせろと言われているし、
 極めつけは――
 「ガーディアンズになりたい、かぁ……」
 幼い頃から一緒に育ってきた妹のような存在である少女が、ガーディアンズ入隊を志している事だ。
恐らく彼女は自分もガーディアンズに入って、フィーのサポートをしたいと考えているのだろう。
だがフィーの所属する粛清部はそんなに甘い部署ではないのだ。
フィー自身、何度も死に掛けた事も有る。
通常の任務では味わえない地獄を体験する事になる。
何より、純真な彼女に汚れきった裏の世界を見せたくはなかった。
どう説得すれば分かってもらえるのか、そう考えると少しばかり気が滅入る。
はぁ、とフィーは深い溜息を吐いた。
 ついでに言えば、今回の任務のパートナーがアルベルトである事も悩みの一つだ。
スラっと伸びた長身に少し幼さの残る端正な顔立ちと、女性受けしそうな外見ではあるが――
 「早く所定の位置に就いてください」
 生真面目過ぎる為に、自由奔放なところがあるフィーには口煩く思えて仕方がない。
アルベルトは数週間前に粛清課に配属された。
研修時代に上の連中が目を付けたらしいが、その研修も3か月前に終えたばかりというヒヨッコだ。
正直、お守を任せられた気がしないでもない。
 「へいへーい、今行きますってパートナー殿。……ん?」
フィーの目に微かな閃光が映る。
黒く光るそれは彗星や小隕石とは違った軌道で少しずつ近付いてくる。
 「どうしました、フィー?」
只ならぬ気配を感じ取ったアルベルトが宙を見上げる。
 「何ですか、アレは……!?」
 「あの軌道は……意思を持っているの?」
キュイィィィィン、とそれが小さく鳴いた気がした。
 次の瞬間、それは同盟軍の艦隊を貫いた。大きな爆発と共に戦艦の破片が宙に飛び散る。
 「なっ!?」
息を呑む間も無く凄まじい衝撃が体を伝う。
破壊された戦艦がガーディアンズ・コロニーと接触し、一部が崩壊している。
 「戻るよ、アル!」
 「了解!」
T字型の通路に行き当たり、迷う事無く左へ折れる。
 「リニアは多分止まってるだろうから徒歩で戻るよ、……っ!?」
 一瞬、視界が闇に奪われる。
が、すぐに非常用の電灯が燈る。どうやら至るところで被害が出ていると見て間違いないだろう。
 このコロニーにはいくつもの通路があり有事の際にはどこかが塞がったとしても、
住民を安全なシェルターまで誘導出来るように設計されている。
一番早くコロニーの中心部に到達出来る通路を進んでいると…
崩れた壁が折り重なり扉を閉ざしているのが目に入った。
 「こっちよ!」
 まだ崩壊が始まっていない通路に飛び込み、一目散にシティを目指す。
流石に人の姿は無い。
閑散とした通路に二人の靴の音が響き渡る。
ゴォォォォォ……ンと、何かが崩れる音が遠くから響く。予想以上に被害は大きいらしい。
まだこちら側ではそう大きな崩壊は無い。
その事が嫌な予感を感じさせる。
暫く進むと中継ターミナルへと続く大きな扉が見えてきた。
 「フィー、待って下さい!」
 風を裂くような鋭い声に足を止めると、フィーの目の前に瓦礫の山が降り注いだ。
立ち上る粉塵に舌打ちをする。
 「チッ、これじゃシティへは……!」
 「少し下がっていてもらえますか?」
 言い終わるより早く、アルベルトが杖を振り翳す。
地中から突き出た岩が瓦礫の山を持ち上げ左右に吹き飛ばす。
 「道は開けました、行きましょう」
駆け出すアルベルトをヒュゥ、と口笛で称えながらその後を追う。
 「なるほど、私と組ませた理由が解ったわ。……上の連中はこれを見越していたのかしらね?」
 長い通路を一気に駆け抜ける。
視界が開けた。
強い光に、フィーは目を細める。
薄暗い通路を走ってきた為か、中継ターミナルの電灯は眩しかった。


ガーディアンズ・コロニー内中継ターミナル…

 ターミナルには崩落に遭い怪我をした人達と、避難を誘導するガーディアンズで溢れ返っていた。
フィーはシティ側の通路で手当てをしているビーストに話し掛ける。
 「状況はどうなっているの?」
その声に振り向いたビーストはフィーを一般人だと思ったのか、
 「避難場所は向こうのガーディアンズに聞いてくれ、今は一刻も早くここを離れるんだ!」
 「機動警護部所属、フィー・イェルハルト。ガーディアンズよ」
タグを見せると彼は驚いたように目を開く。
 「君がガーディアンズ?なら助けに行ってやってくれ!まだ逃げ遅れた人が大勢いるんだ!」
 「それはマズイわね……アル、アンタは」
 「僕も行きます。僕だってガーディアンズですから」
 真っ直ぐな目でこちらを見返してくる。
こういった人間にフィーは弱い。
 「……解ったわ、でも無茶はするんじゃないわよ?」
 アルベルトが頷いたのを確認し、再び薄暗い通路の中に駆けて行く。
最初の通路で二手に分かれ、瓦礫に埋もれた人達を救出していく。
リニアライン沿いに逃げようとしたのか、ホーム近辺で立ち往生している人が多かった。
 「この区画は封鎖しても大丈夫そうね」
マップを眺め探し漏らしが無いか確認していると、悲鳴が奥のブロックから聞こえた。
瞬時に駆け出し扉を開く。
 「なっ……!?」
 フィーは目を見開く。
そこには原住生物ともつかない謎の生命体が蠢いていた。
黒や紫等の毒々しい色の生命体。
崩れた瓦礫の奥で、5〜6歳くらいの少女が謎の生命体に囲まれている。
 「チィッ!」
セイバーを片手に駆け抜ける。
 「ピィ?」
 1匹、小型のエネミーが振り向いたが遅い。
下から上に向かってフォトンの刃を滑らせる。
柔らかい表皮を斬り裂かれ、小型のエネミーは苦痛の声を上げながら倒れる。
 「ギュィィィ!」
斬った勢いで体を回し、もう1匹をハンドガンで撃ち抜く。
 「ギィ、ギィィ」
 こちらに気付いたのか、中型のエネミーが剣状の両腕を振り上げる。
恐らくはコイツがリーダー格だろう。
左手を大きく振りかぶり、鋭い切っ先を突き刺そうと振り下ろす。
 「遅いっ!」
 後ろに飛びずさり攻撃を躱すと同時、左手に構えたハンドガンで胴体を打ち抜く。
が、両腕を交差させ弾かれてしまった。
 「中々知能はあるようね……!」
 それなら、とフィーは正面から突っ込む。
突進に合わせエネミーが右手を振り降ろし、体を裂こうとする。
当たる直前、フィーは身を捻り攻撃を避ける。
その勢いのままに腕を跳ね上げエネミーの左腕を斬り落とす。
 「ギィィッ!」
 悶えるエネミーが振り上げようとした右腕に、セイバーを振り下ろす。
肉を断ち切る感覚。
紫色の体液を撒き散らしながら断末魔の悲鳴を上げるエネミーの頭に銃口を突き付ける。
タン、とフォトンがエネミーを貫く。
 「……ふぅ」
謎のエネミーを掃討し、一息吐く。
 「そうだわ、あの子は」
 瓦礫の奥を覗き込むと、隅で小さくなって震えている少女を見付けた。
安心させようと、出来るだけ優しい声で話し掛ける。
 「もう怖いのはいないわよ、お嬢ちゃん」
その声に身をびくっと震わせ、恐る恐るといった様子でこちらを見上げる。
 「もぅ、怖いのいない?」
 「うん、お姉ちゃんが全部やっつけちゃったからね。大丈夫、安心して。それより怪我はしてない?」
 「うん、だいじょぶ……」
少女を背負い、来た道を戻る。
 通路を歩きながら先程のエネミーの事を整理してみる。
 (……あんなタイプの原住生物は見た事が無いわね。
それにあの隕石のようなものが飛来するなんて普通じゃ考えられない。
ここであの生命体と隕石に何か関連を求めるのは早計かしら?)
 何にしろあのエネミーには友好的なものは感じられない。
という事は敵として認識しても問題は無い。
 ようやく避難用シェルターに着いた頃には本部からの救護隊が駆け付けており、
負傷者の手当てが行われていた。
少女を他のガーディアンズに任せ、フィーは通路の入り口付近に座り込む。
 事を秘密裏に処理するのは無理そうだな、とぼんやり考えていると背後に気配を感じた。
振り返る事も無く、フィーは声を掛ける。
 「いきなりの実戦はどうだった?アンタのようなヒヨッコには少しばかりキツかったかもねぇ」
 「……よくそんな呑気に話せますね、フィー」
 「私達はガーディアンズだよ。余り深刻そうにして皆に不安を広がらせても困るもんだよ、アル?」
非常用として持っていたモノメイトを投げ渡す。
 「それで傷でも塞いでおきなよ。アンタの事だ、レスタは救助した人達に使って自分に掛ける程の
PPなんて余ってないんだろう?」
 「意外と優しいですね」
冗談とも本気とも取れぬ感謝を返したアルベルトに「ハッハッハ」と笑い声を向け、スッと立ち上がる。
 「いい男と可愛い女の子には優しいんだよ」


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